大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成8年(ワ)2025号 判決 1998年9月04日

原告

加地美喜子

被告

新居見和夫

ほか二名

主文

一  被告新居見和夫及び被告キリンビバレッジ株式会社は、連帯して、原告に対し、金三〇五万七五四六円及びこれに対する平成六年一〇月五日から支払い済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の右被告らに対するその余の請求及び被告オリックス・オート・リース株式会社に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の五分の三及び被告オリックス・オート・リース株式会社に生じた費用を原告の負担とし、原告に生じた費用の五分の二及び被告新居見和夫及び被告キリンビバレッジ株式会社に生じた費用を被告新居見和夫及び被告キリンビバレッジ株式会社の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の求めた裁判

被告らは連帯して、原告に対し、金六四一万九八四二円及びこれに対する平成六年一〇月五日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  原告は、次の交通事故(以下「本件事故という」。)により負傷したとして、相手車の運転者である被告新居見に対しては不法行為により、その使用者である被告キリンビバレッジ株式会社(以下「被告キリン」という。)に対しては使用者責任により、車両の保有者である被告オリックスオートリース株式会社(以下「被告オリックス」という。)に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により、損害の賠償を求める。付帯金は事故の翌日から支払済までの民法所定の利率による遅延損害金の請求である。

(なお、被告新居見及び被告キリンが先に提起した債務不存在確認訴訟―平成八年(ワ)第一九五号事件―は訴の取下により終了した。)

二  事故の発生(当事者間に争いがない。)

1  発生日時 平成六年一〇月四日午前一一時一〇分ころ

2  発生場所 神戸市須磨区車字竹ノ下一二八一番地先路上(県道神戸三木線)

3  被告車 普通貨物自動車。被告新居見運転

4  原告車 普通乗用自動車。原告運転

5  事故態様 原告車と被告車が行き違う際に、被告車両が中央線を越えて進行してきたために、そのドアミラーが原告車のドアミラーに接触し、折れたガラス部分が窓から原告車内に飛び込み、原告の胸部付近に当たった。

三  責任原因

1  被告新居見は過失により本件事故を起こしたから、民法七〇九条により損害賠償責任を負う。(争いがない。)

2  被告キリンは、被告新居見の使用者であり、同被告が被告キリンの業務の執行中に右事故を起こしたから、民法七一五条により損害賠償責任を負う。(争いがない。)

3  被告オリックスは被告車の所有者である(その責任の有無については争いがある)。

第三争点と、争点に関する当事者の主張

一  被告オリックスの自賠法三条による責任の有無。

1  原告

被告オリックスは被告車を保有して、その承諾の下に被告キリンに使用させて、経済的利益を得ているのであるから、運行供用者に該当することは明白である。

2  被告オリックスの主張

被告車は、平成四年一〇月二七日に自動車リース契約により、被告オリックスから被告キリンにリースしたものである。右リース契約においては、

(一) 被告キリンは、被告車を自由に管理使用することができ、その使用(距離、時間、場所、運転者、運転目的等、すべての要素において)について被告オリックスから何らの制限を受けない。

(二) 被告キリンは自己を保険の目的とする自動車総合保険(対人、対物、搭乗者保険)に加入する。

(三) 被告車が滅失したときは、被告オリックスは被告キリンに対して、残リース料と被告車の残価の支払いを請求することができる。

などが約定されているのであって、被告オリックスは、被告車の使用については支配権を有せず、かつその使用により利益が帰属する者に該当しない。

二  原告の負った傷害とその程度、後遺症の有無

1  原告の主張

(一) 原告は、本件事故により、肋軟骨損傷、左手挫傷、頸部捻挫の傷害を負い、その治療のため、須磨赤十字病院及び神戸リハビリテーション病院に、次のとおり通院した。

(1) 須磨赤十字病院

平成六年一〇月四日から平成六年一一月三〇日まで

平成七年四月一日から平成八年四月二二日まで

(2) 神戸リハビリテーション病院(MRI検査など)

(二) そして、平成八年四月二二日、症状が固定したものと診断されたが、原告には次のような症状が残存した。

両僧帽筋の強度の圧痛。

左前胸部肋軟骨の著明な圧痛。

頸椎部可動域制限。

左手握力の低下(右一・九kg、左一・三kg)。

なお、これらの後遺症は、自賠責保険においては非該当とされたが、少なくとも自賠責後遺障害等級表一四級一〇号に該当する。

(三) 右治療期間中、原告は、平成六年一〇月四日から平成七年七月三一日まで三〇一日間休業を余儀なくされた。

2  被告らの主張

(一) ドアーミラーのガラス部分が折れて原告車内に飛び込み原告の胸部に当たったことにより、胸部になんらかの傷害が発生したことは争わないが、左手挫傷、頸部捻挫の傷害が生じたというのは不可解である。

ことに頸部挫傷は、通常、追突等により頸部が過伸展、過屈曲することにより発生するものと考えられ、物が飛び込んで胸部に当たっただけで発生することは考えられない。現場にはスリップ痕もなく、原告の車両が原告の頸部に損傷を生ずるほどに急に停止した痕跡もない。

(二) レントゲン写真上は骨折の存在を示すものはない。MRI上、左第二肋骨軟骨に輝度の変化があるとしても骨折と診断できるようなものではない。

(三) 原告の胸部の腫脹は、原告がかねて有しているひどい喘息の持病のために生じたものと考える方が合理的であるし、原告の訴える胸部の痛みは心因性のものあるいは喘息によるものと考える方が合理的である。

三  原告の損害

1  原告

原告に生じた損害は、別紙損害計算表のとおり。

四  素因減殺

1  被告ら

仮に軽い打撲以上の傷害が生じたとしても、原告には喘息という持病があり、このために、本件事故によって生じた傷害の治療に必要な以上の治療期間を要したものであるから、損害の公平な分担という観点から、過失相殺の規定を類推適用して、賠償額を減額すべきである。

2  原告

被害者の健康状態により治療期間の長短が生じても、そのことを考慮すべきではない。短期に治癒した健康な者を基準とするのは根拠がない。

五  過失相殺

1  被告ら

原告が窓を開けて走行していたために、ミラーのガラスが飛び込んできたものである。換気をしたいのなら、ごくわずかの隙間を開けておけば足りる。運転中は、窓ガラスを閉めて運転するのが通常であるから、損害の公平な分担という点で過失相殺事由となる。

2  原告

運転中に窓を開けておくことが何らかの注意義務に違反しているとか、過失があるとか言えるものではない。

第三争点に対する判断

一  被告オリックスの自賠法三条による責任の有無

甲七、八によると、被告主張のとおり、被告オリックスは、いわゆるファイナンスリースとして、被告車を所有して、被告キリンに賃貸しているが、担保価値を毀損するような場合のほかはその運行について一切干渉することがなく、実質的には車両の購入・利用に当たって、被告キリンに信用を供与しているにとどまり、経済的には、割賦購入斡旋と異なるところはないことが認められる。被告オリックスは被告車についての運行を支配し管理する可能性はなく、管理すべき立場にもないから、運行供用者には当たらない。同被告に対する請求はその余を検討するまでもなく、理由がない。

二  原告の負った傷害とその程度及び素因減殺

1  初めに、原告の診断、治療の経過を見ておく。

甲四(診療録)及び証人麻田毅彦の証言のほか、各項掲記の証拠によると、次のとおり認められる。

(一) 本件事故では、被告車のドアーミラーが原告車のドアーミラーにぶつかり、衝撃で原告車のミラーのガラスが外れ、開いていた窓から、原告車の中に飛び込んで胸などに当たった。

(二) 原告は、事故の直後、現場で警察官に事故状況を説明中に気分が悪くなり、近くの須磨赤十字病院に運ばれ、同病院麻田医師の診断は、左前胸部打撲、左手挫傷であった。

胸部は、圧痛があり、軽度の腫脹があった。

左手は手首部分と第二指に出血があったが、消毒して湿布した程度であった。

頸部痛があったが、頸椎の運動制限はなく、頸部筋緊張が見られた。

当日付けの診断書では「頸部捻挫、左前胸部打撲、左手挫傷。一週間の通院加療を要する。」とされた。

(三) 原告は、かねてからかなりひどい喘息に悩んでおり、かねて受診していた同病院内科では、入院治療を勧められることもあったほどで、本件事故による通院の当初から、その発作がしばしば起きていた。

(四) 以来、原告は同病院に通院したが、左手挫傷についてはその後何らかの手当てをした形跡はない。頸部の痛みは軽減していった。胸部痛は、一〇月一一日には、痛みは前と同様であり、湿布で喘息が強くなるので湿布はやめ、バストバンドで固定することとされた。一〇月一八日には、頸部痛はあるが、左胸部痛が軽くなった、バストバンドで固定中も喘息発作あり、とされている。三週間後の一〇月二七日に、同医師が診断したところでは、頸部痛も軽くなり、手指を握って開く動作には異常はなく、手関節の可動域制限もなかった。左胸部痛は記載されていない。

(五) 四〇日後の一一月一四日には「頸部痛、項部痛」が訴えられているのみであった。以後も、数日ごとの通院に際して、理学療法が続けられた。一二月五日の診療録には、項部痛軽減とある。

(六) ところが、一二月二一日には、頸部痛不変とあるほかに、左前胸部腫脹、圧痛、疼痛がある旨記載されている。

平成七年一月二七日も、左前胸部に圧痛を訴え、同様の処方の鎮痛剤注射と投薬がなされた。

(七) 同年三月、保険会社担当者に対して、同医師は、痛みが強く変わらないので、まだしばらくは治療は必要である。レントゲン写真上、骨折がないことは明らかであり、左前胸部腫脹の原因は不詳であるが、事故後生じていることから、外傷後におきる炎症によるものと考える、と回答した。

三月六日、左肋軟骨の突出が記録された。

(八) 三月末、原告は右肩痛を訴えるようになった。前胸部痛はいぜん続いていた。以後も月に一度程度医師は原告の同様の訴えを聞き、同様の理学療法を続けた。

(九) 通院日数は、平成六年一〇月、一一月は五日づつ、一二月は八日、一月以降は毎月三、四日づつであった。左前胸部痛は少しづつ軽減していていたが、同様の療法が続けられた。

(一〇) その間にも喘息発作があり、そのため、強力な処方ができなかった。

(一一) 平成七年八月、麻田医師は保険会社宛に、傷病名を「左肋軟骨損傷、頸部捻挫」とする診断書を発行した。ただし、診療録中には、左肋軟骨損傷と診断した時期やその根拠については記載されていない。

(一二) 同年一〇月九日、原告はMRI検査を受けたが、発作不安、体調不良のため中断するほどで、体動のため詳細な検査ができないほどであった。第二ないし第六頸椎が直線化しており、第五、六頸椎間の椎間板ヘルニアを認め、軽度の脊柱管狭窄が認められた。外傷性の変化として矛盾はないとされた。

(一三) 平成八年一月、麻田医師は、傷病名を肋軟骨損傷、頸部捻挫としたうえ、本件事故の日から治療を開始したが、左前胸部痛、頸部痛が残存し、平成七年一一月三〇日現在は理学療法を行っている旨の診断書を発した(乙八)。

(一四) そして、同医師作成の平成八年四月二二日付けの自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(乙一〇)では、自覚症状として「頸部痛・左前胸部痛、夜間痛、左手で物を落としやすい、頸椎の前屈位困難のため清掃とか困難。」とされ、他覚的症状としては、「両僧帽筋の圧痛強度。左前胸部肋軟骨の圧痛著明。左肋軟骨の突出。左握力低下(右一九kg、左一三kg)。」とされ、頸椎部運動障害として「前屈三〇度、後屈一〇度、右屈三〇度、左屈二〇度、右回旋六〇度、左回旋三〇度」との検査結果とされた。また、四月二五日付け診断書では、同病名で理学療法を行っていたが、四月二二日症状固定し、頸部痛、左前胸部痛が後遺症として残存し、頸椎部可動域制限、頸椎部疼痛、握力低下等の症状が継続するものと思われると診断されている。

右診断に基づいて、原告は自賠責保険に認定を申請したが、非該当とされた。

2  ところで、右診断病名のうち、まず、左手挫傷については、前記のとおり、事故当日に処置を受けたことからも発生したことは明らかであるが、その後は手当てされた形跡はないから、ごく短期に治癒したものと解される。

3  次に、肋軟骨損傷については、麻田医師の証言によると、その診断根拠は、MRI検査の結果と、左前胸部痛の訴えであると認められる。

このMRI画像について、乙二一及び乙二四において、市橋医師は、左第二肋軟骨に高輝度と低輝度の部分がまだら状に存在する(このことは、西市民病院の診断書も肯定している。乙二〇)ことから、その部位に外傷性の軟骨の変性を疑い、広範囲な打撲があった可能性がある、としている。肋軟骨骨折(損傷)とは、軟骨の変性の問題であるから、線状の画像でないからといって、損傷を否定するのは的外れである旨の同医師の指摘は納得できる。

そして、胸部痛については、事故当日、「圧痛、腫脹軽度あり」とされ、一週間後の一〇月一一日も痛みが続いていたが、湿布は喘息発作を招くので止め、バストバンドで胸部を固定することに切り換えられたこと、一〇月一八日にも、胸部固定中で、左胸部痛軽減とあり、一〇月二七日にも、痛み軽減、深部出血痛軽減とあり、当初から、胸部痛の訴えがあったことが認められる。ところが、その後は胸部痛の訴えはなくなり、二か月近く経過した一二月二一日に至って、再び左前胸部腫脹、疼痛、圧痛が記録された。麻田医師は、この圧痛を根拠に、平成七年一月になって追加病名として左肋軟骨損傷との病名を追加したものである。

たしかに、本件では、窓から飛び込んだミラーのガラスが、胸に当たったとしても、左手に比較的に軽度の挫傷を作ったあと胸に当たったと推定されるうえ、ガラスだけであるから、その重量からしても、その打撃は重いものとは言えないこと、左前胸部には、腫脹があったとされるものの、皮下出血といった打撲の痕跡は記録されておらず、外部からの打撃による腫脹とは認めがたいこと、レントゲン検査上、骨に異常は認められていないことなどからして、ガラスが胸に当たったとしても、市橋医師が可能性を指摘するような「広範な打撲」は考えにくい。

けれども、ガラスがぶつかったことによる打撃自体によって、胸部打撲、肋軟骨損傷を生じる可能性は低いものの、原告の胸部痛及びそれを招いた原因であると推定される肋軟骨損傷が、本件事故の際の、原告の不意の体動によって生じたものと推定することは、不自然ではないと思われる。

ただ、原告には、ひどい喘息の持病があり、その発作の際に胸部がかなり動くために、痛みが消えないばかりか、むしろ悪化させたものと推定でき、事故時の原告の不意の体動によって、肋軟骨損傷が生じたものの、それによる圧痛はおよそ一か月(一〇月二七日の訴え)で消えたのに、完全に癒合しないうちに、原告の持病である喘息発作のために、再び悪化し、圧痛を感じるに至ったもので、さらには胸部の突出を見るほどであったと解される。

4  次に、頸部捻挫について考える。

原告は、初診時に、項部痛を訴え、頸緊張が見られ、その四か月後の平成七年二月に「左手しびれ」を訴えて頸部捻挫と診断されているが、上肢の腱反射は正常で、知覚障害もなく、スパーリングテストもイートンテストも、結果はマイナスとされていて、他覚的神経学的所見を伴わない程度のものであったと言える。診療録には、頸部捻挫に原因すると解される日常動作上の不都合が生じていることを示唆するような記載はなく、左手のしびれ感と握力の低下が主たる症状といえる。

他方、症状固定時には頸部可動域制限があるとされ、右回旋のほかは、正常値の二分の一程度であるとされているけれども、可動域制限テストの屈曲範囲は患者の自覚的なものにほぼ等しく、客観的所見と評価できるか疑問があること、原告には、かなりひどい喘息の発作がかねてから続いていたこと、腰痛、右肩痛、棘下筋痛、背部右側圧痛、睡眠障害、項部痛、両手指痛など、多岐にわたる不定愁訴が長期にわたって続いていること、本件事故では、追突された訳ではないから、原告の頸部がいわゆるむちうち状態になって、過伸展、過屈曲を起こしたとは認められないことなどからすると、頸椎捻挫とされる症状が、本件事故によって発生したものであるかを疑わせる事情もある。

ただ、対向車と接触し、ガラスが飛び込むという突発事によって、原告が思わず急制動をしたであろうことは容易に推定できるし、驚いた原告が不意に不自然な動きをしたことで、頸部が過伸展、過屈曲を起こして、頸部捻挫を生じたと解しても、あながち不自然ではないと考えられ、本件事故によって惹起された症状があることは否定できない。もっとも、こうして受ける不意の運動であっても、逆に、無意識的本能的に防御姿勢が取られたはずであることを考えると、頸部が受ける衝撃は、さほど強くはなかったと解される。

右からすると、頸部捻挫による症状は、三か月程度で治癒すべきものが、原告の既往症である喘息や、心因性の要素から、きわめて長期化したものと認めるのが相当である。

5  さらに後遺障害の有無について見る。

前記認定のとおり、いわゆる症状固定時に、原告に、頸部捻挫を契機として生じた頸部の運動域制限等が残り、胸部には、さほど酷くはない胸部痛が残ったものと認められる。心因性の要素が寄与していることを考えると、その症状は一年程度で消失するもので、以降はもっぱら原告の既往症に基づく症状のみが残存しているものと解するのが相当である。

三  損害

1  治療関係費

(一) 原告の須磨赤十字病院における治療費の未払い額のうち、前記のとおり、平成七年三月末までの分が本件事故と相当因果関係があるものと認めるが、その未払い額を認めるに足りる証拠はない。

(二) 平成七年四月一日以降は、症状固定までの治療費のうち五〇パーセントの限度で相当因果関係が認められる。乙一二、一五によると、その間の治療費は合計三六万二三二〇円と認められるから、その半額一八万一一六〇円が相当因果関係があると言える。

(三) なお乙一四、一五によると、須磨赤十字病院に対しては、診断書二通の作成料八二四〇円が未納であると認められるが、その性格上、全額相当因果関係を認める。

(四) 右赤十字病院の指示で平成七年一〇月九日に神戸リハビリテーション病院に行きMRI検査を受けた際に支払った治療費(検査費)六万〇五八〇円(乙一七)については、その半額三〇二九〇円に相当因果関係を認めることができる。

2  通院交通費

須磨赤十字病院等への通院合計一三四日のうち、平成六年末までの一八日分については、全額相当の七二〇〇円を、その後については、半額相当の二万三二〇〇円を、本件事故と相当因果関係のあるものと認める(乙一八)。

3  休業損害

原告は、本件事故当時、パートで飲食店の賄いの手伝いをし、司法書士事務所の事務員としても働いていたと供述するが、その収入に関する的確な資料はない。もっとも、原告の供述によると、夫を亡くして働き始めたときであったというのであり、無職無収入であったとは考えられないから、賃金センサスにより、同年齢層の女子労働者平均の年収三三五万五三〇〇円程度の収入は得ていたものと推定するのが相当である。

原告は、平成六年末までは休業した旨供述しており、前記認定の治療経過からすると、この時期までは稼働できなかったものとして、全部因果関係を認めることができる。その損害額は八一万八一四二円となる。

それ以降、平成七年七月三一日まで就労できなかったとの主張は、肯認するに足りる的確な証拠がないが、前記認定の治療経過からして、半分程度は休業したものと推定でき、持病も原因していることを考慮して、二五パーセントのみ相当因果関係を肯定でき、損害は四八万九三一四円となる。

右によると、相当因果関係の認められる休業損害は、合計一三〇万七四五六円となる。

4  慰謝料

前記認定の原告の症状経過、後遺症の内容、程度、残存期間、その他本件に表れた諸般の事情を総合すると、本件事故によって被った原告の精神的苦痛を慰藉するには、合計一一〇万円をもって相当とする。

5  以上の合計は二六六万七五四六円である。

6  弁護士費用

原告が本訴の提起・遂行を原告代理人に委任していたことは当裁判所に顕著な事実である。そして、本訴の経過、立証の困難さ、その他本件に表れた諸般の事情を考慮すると、相当因果関係のある費用としては、四〇万円を相当とする。

7  まとめ

以上の相当因果関係の認められる損害の合計は、三〇五万七五四六円となる。

四  過失相殺

原告は、運転席横の窓を開けて走行していたために、ドアーミラーのガラスが飛び込んで来たのであるが、窓を開けて走ることが、自動車走行上の何らかの義務に反するとか、通常ありえないことであるとかはとうてい言うことができないから、この点において原告に過失があるとは言えない。

五  結論

よって、原告の本訴請求は、金三〇五万七五四六円とこれに対する事故の翌日から支払済までの遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとして、民事訴訟法六一条、六四条、二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下司正明)

(別紙) 損害計算表

請求額 認容額

1 治療費

(1) 須磨赤十字病院(未払い分)

ア 平6.10.4~6.11.30 67,850円 0円

イ 平7.4.1~8.4.22 362,320円 181,160円

ウ 診断書料(2通) 8,240円 8,240円

(2) 神戸リハビリテーション病院 60,580円 30,290円

2 通院交通費(通院バス料金) 54,060円 30,400円

3 休業損害 2,766,792円 1,307,456円

4 慰謝料 2,500,000円 1,100,000円

5 弁護士費用 600,000円 400,000円

6 合計 6,419,842円 3,057,546円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例